生活エッセイ

「家事」って何だっけ。生活エッセイ

最近あまりに驚いたことがあるので聞いて欲しい。

ある日、いつものように娘と先に食事を済ませ、夫の帰りを待っていた。

車の止まる音が聞こえると同時にお鍋に火をつけて、自分で言うのもなんだけどわりと手際よく何品かの料理を出した。

娘と一緒にご飯をぽんぽんとよそいながら「おいしくなあれ、おいしくなぁれ」と魔法をかけるのが我が家の定番だ。

夫は食事、娘と私はフルーツをつまみながら、3人で食卓を囲む。

やがて、食べ終わった夫がタバコを吸いに席を立った。

私は小さく、はあ。とため息をついた。

汚れた食器は机の上に置かれたままだ。

「お皿落っこちちゃったらあぶないからね、先にママお片づけするね」とわざと大きめの声で娘に言った。

聞こえているか聞こえていないか、

嫌味に気付いたかな。なんて考えながら洗い物をしていると、

トイレから出てきた夫にとんでもないことを言われてしまった。

「あのさあ、机見てみろよ」

机の上はお皿を下げる時に軽く拭いたけど、まだ汚れてたかな?と思ったが、夫が言いたいことはそうではなかった。

「ティッシュ、残ってるじゃん」

ぽかあん、と口を開けたまましばらく何も言えなかった。

机の上にはたしかに丸めたティッシュが1つ、転がっていた。

食後に夫が口元を拭いたティッシュが。

食器を片付ける時に気がつかなかったのか、大雑把だのズボラだの俺は綺麗好きなのに、とぐずぐずと詰め寄る夫の言葉のほとんどが耳に入らなかった。

夫が口元を拭いたティッシュ、片付けるのは私の仕事なの?

食器をシンクまで下げて欲しいと思っていた私の嫌味なんて通じるはずもなかった。圧倒的な無力感と、なぜかは分からないけど「負けた…」と感じてしまった。

まさか、ここまでだったとは…。

今までも鼻をかんだ後のティッシュがそのまま放置されていたことは何度かあった。でも自分で捨てていることもあったし、後で捨てようと思ってそのまま忘れてたんだろうなと思って大して気にも留めなかった。

私にもそういうことはあるし。

だけどまさか、それを捨てるのが私の仕事だと思っていたとは…。

呆れるというより、はっきり言って度肝を抜かれた。

じゃあ今まで鼻をかんだティッシュを捨てていたのは、私の家事をお手伝いしてくれている感覚だったのだろうか。

いや待て、そういえばチーンと鼻をかんだ後、丸めたティッシュを渡される事がよくあったな。

そういうことだったのか。イタズラ心なのかと思っていた。

というか待て、さっき自分のこと綺麗好きって言った?

綺麗好きってなに?

「誰かが綺麗に掃除した家に住む」のが好きな人のこと?

それを綺麗好きって言うの?

そんなの誰だって好きだよ。じゃあ私だって綺麗好きだ。さあ好きに掃除してくれ。

そりゃ確かに私は大雑把で四角い部屋を丸く掃く様な所がある。夫の方が几帳面だし掃除をさせれば丁寧だろう。

たまにしてくれる時なんて、それはそれは時間をかけて私が磨くより遥かに美しく、

「はあ〜、ここって元々はこんな色だったんだ…」と驚かされるほど綺麗に磨いてくれる。だけど、しないじゃん。

日常的に綺麗な状態を保つ為に必要なのは、一年に一度の大掃除じゃなくて毎日の小掃除と、月に一度の中掃除だ。

それがわからない人に綺麗好きを名乗る資格はない。資格剥奪!免停だ。

いや別に私は綺麗好き免許センターの職員でもなんでもないけどさ、とにかく絶対に免停だ。

咄嗟に気の利いた返しの1つでも出来れば良かったのに、呆気に取られて何も言い返せなかった自分に、時間が経つにつれふつふつと怒りが湧いてきて、どうにも気持ちの持って行きようがなく、今この文章をしたためている。

夫は家事をしない、まあ正直わかりきっていたことだけど。

「どこまでが家事なのか」

その線引きって人によってこんなにも違うのかと思わされた。

そういえば以前、見えない家事がニュースになってたな。

夫の思いつく家事なんて炊事洗濯掃除以外に何もないだろうけど、

無意識下でこんな小さな事までやることを強要している。

本人もそれに気が付いていない。

1つ1つは5分もかからない家事でもそれが毎日毎日何十個も、何百個もある。塵も積もれば鬱になる。

こんな事までやっていたらこれからの人生の何十年分をこの細々した家事に捧げなきゃならないんだ。考えるだけで気が遠くなる。

夫よ、料理も掃除もしなくていい。まずは、ティッシュを捨てられるようになろう。

2歳の娘がチーンと鼻をかんだティッシュを自分でゴミ箱に捨てているのを見ながら、喜びと情けなさの入り混じった複雑な気持ちでぽんと頭を撫でた。

後ろから、夫の放屁の音が聞こえた。