生活エッセイ

おばさん、初めて自転車に乗る

私、自転車に乗れません!

私は、自転車に乗れない。
幼稚園くらいだったか、小さい頃に母と一緒に練習をした記憶はあるのだけれど、なかなか一向に乗れるようにならなくて、なんと結局乗れないままずるずると気がつくともう30歳になっていた。
といっても学生時代はずっとバス通学だったし大して困ることもなく、自転車に乗れなきゃバスに乗ればいいじゃない、と超小規模なマリーアントワネット的思考で今まで生きてきていたのだけど…

ところがどっこい!

一昨年娘が生まれた。まあ抱っこ紐もベビーカーもあるし、歩けるようになったら手を繋いで出かければいいし、なんとかなるなるオッケー!と気楽に考えていた。
ところがどっこい!
歩けるようになってからは、
手なんて繋ごうものなら一本釣りのカツオのように全身でビチビチと跳ねながら離せ離せと泣き叫ぶし、ひっくり返って頭でも打ったら大変だし、というかもう既に実際に何度か打っているし…

たまーに一歳半〜2歳くらいの子が親と手を繋いでまっすぐ歩いてるのを見かけることがあるけど、心の底からびっくり仰天たまげちゃう。あれ、本当に人間の子供?新型ペッパー君じゃなくて?

保育園の送迎はいつも抱っこ紐で行っていたんだけど、2歳くらいで嫌がるようになってきて体をくねらせ前後に揺れ、手足を器用に使って凄いテクニックで抜け出すようになってしまった。
ニュージーランドの水族館から脱走したタコのハリーくんのニュースを覚えているだろうか?覚えなくても全然大丈夫。とりあえずタコを想像してほしい。そんな感じで抜け出してくる。
仕方ないからいつも素抱っこで歩いて帰っていたのだけれど、
そろそろ娘も12キロ。ちょっと私の腕力では抑えきれなくなってきて、どうにかならんもんかねえと常々考えていた。

ある日のお迎え

いつものようにビチビチの娘を抱っこして、あやしながら帰っていると、
自分で歩きたい!!!とプンスカ。
仕方ないなあと降ろしてみたら
「歩道あるくのいやだあ!!車道がいい!!」とニコニコ猛ダッシュ。
走り出す娘を引き止めようとすると全力の頭突きで応戦してきて、一瞬意識が飛びかけた。
こいつ、アサシンの才能があるな…。
結局運良く事故にはならなかったんだけど、ちょっともう私の力じゃ守りきれない。2歳児とタイマンしてまさか負けるとは思わなかった。自分の非力さが憎い。この日、本当にもう限界だと思い、今まで避け続けていた自転車に、ついに乗る決心がついた。

ちなみに、娘によくよく話を聞いたら歩道は何もなくてつまんないけど、車道は車がたくさん走ってるから車道を歩いた方が楽しいと思ったんだそうだ。
なんだその柔軟な発想。クリエイティブすぎるわ。若手起業家かよ。

初めての自転車

そうと決まれば早速翌日、自転車に乗って迎えに行くことにした。
乗れない乗れないといってはいるけど、実は乗れるようになりたくて何度か練習したことはあって、その甲斐あって「直進」だけはできるのだ。エッヘン。
ただカーブを曲がることができないので曲がり角に差し掛かるたびに一度降りて、自転車を持ち上げ方向転換してからまた乗る、という非効率極まりない乗り方にはなるけど…。
いける、いける、いける…!
と自分に言い聞かせて、一か八か乗ってみた。
緊張からか汗がとめどなく溢れ、息切れが止まらない。暑い。額から垂れたあせが目に入って何度か壁にぶつかった。
ちょっとまじかこれ、徒歩の方が100倍楽じゃん。
命からがら保育園まで辿り着き、
本当に無事に帰れるのか不安になったがもうここまできたらどうしようもないと娘をイスに座らせ、ヘルメット、サポーターなどありとあらゆる安全具をつけた。ベルトを締め、さあ帰ろうとペダルを漕ぐ。
お、お、おもい…
まじかこれ、なにこれ、なんなのこれ。
これ誰かの念能力?足が見えない鎖でがんじがらめにされてんじゃん。ちょっと待ってまじで。緋の目発動中?ダメダメダメこける!こける!!!
何なの?誰かが私の筋力を勝手に鍛えようとしてサドルに重り付けてるのかな?その亀仙人システム今ちょっとやめてもらっていい?!事故る!事故る!!!
フラつきがさっきまでのそれとレベルが違う。というか保育園の荷物持ったままチャリ漕ぐの、難しすぎる。
初心者だぞ。今まだチュートリアルだぞ。
工事現場の兄ちゃんがこっちを見てめちゃめちゃ笑ってるのがわかる。
キッと睨んでやりたいが、それどころじゃない。地面を見てなきゃこける。
その内「お母さん頑張れよ〜w」と応援されてしまった。
ちくしょう!お前も工事頑張れよ!
もう、実は10mくらい漕いだ時点で乗って帰ることを諦めた。
自転車を押してトボトボ歩く。
いや、これで充分だな?!私の目的は暴れる娘を無事に家まで送ること。
別に乗って帰る必要はない。というかこんなレベルで人を乗せちゃダメだ。

帰ってからもおしりがヒュンヒュンして真っ直ぐ歩けなかった。足が筋肉痛になるのは予想がついたけど、このヒュンヒュンはなんだ。
もしかしておしりの割れ目が一つ増えたんじゃ?と心配になって鏡で確認してしまったくらいだ。無事2つで本当に良かった。
それからしばらく毎日自転車で迎えに行っていたのだけれど、どんどん上達していくのが自分でもわかった。
人間やはり必要に迫られればできるようになるもので、1ヶ月もすればカーブも曲がれるようになった。1mの幅があれば、フラつかずに漕げるようになった。ハンドルに付いているレバーは実はブレーキで、引くとタイヤが止まることも分かった。
すごいじゃん、私!

自転車に、空気を入れる?!

夫に「自転車乗るなら空気入れとかんとね」と言われたので、そういうもんかと思って一晩風通しのいい所に置いておいたんだけど、
どうやら全然トンチンカンなことをしてたみたいでキョトンポカンとされてしまった。とりあえず自転車屋に持って行ってみると、プシュプシュとタイヤに空気を入れてくれた。
ははあ。こういう事ね、なるほど。
「全然空気入ってないんだけどこんな自転車よく乗ってたね?!もうゴムだよこれ、ただのゴム!」とおじさんに驚かれただけあって、空気を入れた瞬間、ペダルが本当に10倍くらい軽くなってスイスイと漕げた。ヘリウムガスか何か入れてくれたんだろうか?車体が軽い。軽すぎる。
軽すぎて店を出た瞬間盛大に転んだ。膝小僧に絆創膏貼ってる自分のやんちゃ小僧っぷりに笑ってしまった。

終わりに

自転車に乗っているだけのくせに
「風になったみたい…」とかなんとか言ってる人がたまにいるけど、
何思い上がってるんだよ、お前は人だ。それも凡人中の凡人。風に謝れ。と心の中で悪態をついていたんだけど、この時ばかりは
「私、風になってる…!」と無駄に保育園の周りを3周もしてしまった。
すごい。すごいぞ空気!吸えるだけじゃなかったのかよ!こんなに空気に感謝したのは、4歳の時に海で溺れて以来だ。
空気を入れてから本当に漕ぐのが楽になって、毎日ルンルンで迎えに行っている。
オススメですよ、自転車!
良いですよ、空気!!

自転車を初めて開発したと言われている発明家も、作ったばかりの頃は「またあの発明家がケッタイなものを作ってw」と笑いものにされていたらしいし、
実際に私も30年間ずっと「あんなに細長いタイヤを縦に二つ付けてバランスが取れるはずがない!開発者は壊滅的にセンスがない!」と思っていたけれど、

素晴らしいじゃないか、自転車。
こいつが居ればもうどこまでだって行けそうだ。明日も風になろうぜ!相棒。